雨降る日のキセキ
Prologue
小さい頃から野球が好きだった。
ううん。
野球をしている桜庭朝陽(さくらばあさひ)くんが好きだった。
4つ年上の近所のお兄さん。
小学校は違うけど、放課後に公園で会ってはよく相手をしてくれていた。
優しくてカッコよくて、大好きな人だった。
幼稚園の頃から朝陽くんのことが好きだった。
それは何年経っても変わらない。
でも。
私が小学3年生の春、朝陽くんは突然いなくなった。
お母さんからは事故死だと聞かされた。
嘘だと思った。
朝陽くんは死なない。
朝陽くんは甲子園という夢の舞台で輝くから。
高校生になって、私を甲子園に連れて行くと約束してくれたから。
朝陽くんは死なない。
死ぬはずがない。
お葬式にも参列した。
初めて真っ黒な服を着た。
皆真っ黒だった。
狭い箱の中で眠っている朝陽くん以外、皆真っ黒で、皆泣いていた。
長い長い退屈な式が終わっても、朝陽くんは起きなかった。
朝陽くん、起きて。
そう言っても、もうあの優しい笑顔は返ってこなかった。
あぁ、朝陽くんはいないんだ。
この朝陽くんはもう動かないんだ。
私はこの日、大切な人を失った
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