雨降る日のキセキ
「よしっ」


帰ろう。


雨の中に飛び込むのは少し嫌だけど、いつ止むかも分からないし…しかたない。


そう思って外へ一歩踏み出したときだった。


「おい!」


後ろからグイッと腕を引かれ、校舎に引き戻されたんだ。


振り返ってみると千隼くんだった。


「こんな土砂降りの中歩いて風邪引いたらどうすんだよ」


ほら、と言いながら傘を広げる千隼くん。


パチパチパチっと紺色の傘が雨を弾く。 


「あ…」


“ほら、帰ろう。風邪ひいちゃうよ”


あの日も…紺色の傘だった。


お母さんと喧嘩して、家を飛び出して…。


いつもの公園で泣いていたら雨が降ってきて…。


雨と涙でぐちゃぐちゃになった私に、朝陽くんが傘を差し出してくれた。


あれは…5月。


今日みたいな土砂降りの日…。
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