雨降る日のキセキ
思い出した…。


その日の夜、朝陽くんは亡くなったんだ…。


“傘は今度会ったときに返してくれたらそれでいいよ”

“次いつ会えるか分からないけどね…”


最後の最後の会話はこれだ…。


どうして今まで忘れてたんだろう。


あの傘はどこにいったんだろう。


なんで…何も覚えていないんだろう。


朝陽くんとの最後の記憶は、約束の日じゃななかったんだ。


失っていた記憶が蘇り、指先が震える。


あの雨の日…傘を貸してくれたんだっけ…?


どんな会話したんだっけ…?


「おーい、何してんの?置いてくぞ」


“ちいちゃん?何してるの?帰らなきゃ風邪引くよ”

“ちぃちゃん、置いていくよ?いい?”


…そうだ。


前の日に“もう頻繁には会えなくなる”って言われたから、少しでも時間を稼ぎたくてごねたんだ。
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