雨降る日のキセキ
「お前らはよく頑張ったよ。よくここまで来た」


普段厳格な監督の目には涙が浮かんでいた。


ポタリ…ポタリ…


スコアブックの文字が滲んでいく。


満塁ホームランの印が涙で消えていく。


あと一歩だった。


あとほんの少しだったのに…っ。


「お疲れ、千隼」

「よく頑張った」

「ありがとな」


ようやくベンチに戻ってきた千隼くんを、野手たちが温かく迎え入れる。


頭を撫で、肩をさすり、ボロボロになったエースを労る皆を見て涙が止まらなかった。


だけど、その中心にいる千隼くんは、無表情だった。


涙を浮かべてる先輩、悔しそうにしている先輩、やりきったと顔をしている先輩。


いろんな表情の中、千隼くんだけが違ったんだ。


「千隼。悪かった。この敗戦はお前のせいじゃゃない。俺の采配で負けた。お前は悪くない。すまなかったな」


監督が頭を下げた。


それは、私たちにとって本当に重たい意味を持つ謝罪だった。
< 134 / 336 >

この作品をシェア

pagetop