雨降る日のキセキ
次第にベンチには啜り泣く声が広がっていく。


監督や私だけじゃない。


皆、目を赤くして涙を流していた。


「監督のせいじゃないっす。期待に応えられなかった俺の責任です。すみませんでした」


ただひとり、千隼くんだけは涙を見せなかったんだ。


その強さは、脆さと紙一重。


頭を下げる千隼くんは、少し触れただで壊れてしまいそうなくらい脆かった。


「千隼くん……」


なんて声をかけていいかわからなかった。


“千隼くんのせいじゃない”

“千隼くんは頑張った” 


そんな陳腐な言葉をかけてはいけないほどの痛々しい姿がベンチ裏へ消えていく。


そんな茫然自失のエースの後を追うように、皆がベンチ裏へ引き上げていった。


溢れる涙を拭いながら…。
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