雨降る日のキセキ
「千隼くん…?私たちがここまで来れたのは…、紛れもなく千隼くんのおかげだよ…?お願いだから、それは忘れないで…?」


ツーアウトから満塁を作り、サヨナラ満塁ホームランを打たれた。


ネガティブになる気持ちは痛いほど分かる。


でも…、千隼くんはここで終わるような人じゃない。


私はそう思ってる。


「ごめんな、千紘…」


掠れた声で謝られ、胸がギュッと締め付けられる。


千隼くんの目が潤んでいる。


初めて見る千隼くんの涙。


さっきの怒鳴り声も…初めて聞く声だった。


ベンチでは無表情だったけど、本当はいろんな感情を押し殺して我慢していたんだ。


「千隼くん…。私は、この夏千隼くんと一緒に甲子園を目指せて良かったって本気で思ってるよ。千隼くんのせいで負けただなんて思ってない」


きっと翔吾だってあれは本音じゃない。


何があったのかは分からないけど、翔吾が本気であんなことを思ってるはずがない。


「…皆のところに戻ろっか。皆待ってるよ」


反応のない千隼くんを残してロッカールームを去る。


きっとすぐに戻ってくるだろう。
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