雨降る日のキセキ
「水原って徒歩通?」


アイコンについてはそれ以上深く追及してこなかった。


でも、まだ私と会話するつもりみたいだ。


「そうだけど…一緒には帰らないよ?」


早足でその場を離れようとしたけど、望月くんは構わずついてくる。


犬みたいな人…。


無視しても勝手についてくるんだろうな…。


「あ、せっかく連絡先交換できたんだし、さっきの動画送ってよ」


…ほら。


ちゃっかり真横を歩いて話しかけてくる。


「変な人だね、望月くんって」


「そ?それはありがとう」


「…やっぱり変だね」


思わぬ返しに思わず口もとが緩んでしまう。


変な人って言われて喜ぶんだ…。


「周りと同じ、誰かに似てる、って言われるよりいいっしょ。個性がある方がよっぽどいい。俺は俺なんだから」


誰かと比べて生きるなんてバカらしい


望月くんは小さくそう言った。


まるで自分に言い聞かせるように…。


「…そうだよね。望月くんは望月くんだよね…」


朝陽くんじゃない。 


似てるけど違う。


「やっぱり俺、誰かに似てた?」


…バレてた…。


勝手に他人と重ね合わせられるなんて気持ちのいいものじゃないよね。


「ごめんね。そういうんじゃないよ」


…望月くんは望月くん。


朝陽くんの影を感じるなんてどうかしてる。


あのフォームのことは忘れよう。 


プロ同士だって似てる選手はいる。


ただの偶然なんだから。


「じゃ、俺こっちだから。またな、千紘」


……!


急に名前呼び…。


紳士的だった朝陽くんとは大違い。


でも…、私も下の名前で呼ぶべきなのかな…。



「また明日……千隼くん…」


恐る恐る呼んでみたら、望月くんは嬉しそうに笑ってくれたんだ。




この日から私と千隼くんの物語は始まった。


決して平坦ではない物語が。
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