雨降る日のキセキ
“あの時”の少女と同じように取り乱す千紘。


血の海を見て異様なまでに泣き叫ぶ千紘は、7年前のあの少女と全く同じだった。


“千紘の初恋の人、階段から落ちて亡くなったの?”


帰り道、俺は敢えてそう聞いた。


“そうだよ”


という答えを祈りながら。


でも。


答えは違った。


俺の思った通りだった。


“トラックに轢かれたの”


間違いなく、俺の兄貴、桜庭朝陽のことを指していた。


もうこいつの側にはいられない。


いたくない。


もう…千紘の前では笑えねぇよ…。


俺のせいで千紘は…っ。

 
俺が兄貴を突き飛ばしたせいで、あいつを何年苦しめた…?


初恋の人が忘れられないの、と流した涙を俺は何度も見てきた。


前に進めない自分に苦しんでいるところを、俺は隣でずーっと見てきた。


それなのに、苦しめていた張本人が俺だったなんて。


そんなことあるかよ…っ。


俺のせいで千紘は…。
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