雨降る日のキセキ
「最後まで聞け。あいつは…そのことを俺と二人だけの秘密にしようとした。何でかわかるか?」


「……野球部のため…」


表沙汰になれ公式戦の出場が危ぶまれる。


だから千紘は、表沙汰にしなかった…。


深く傷ついたはずなのに、誰にも言えず一人で傷を抱えて―。


「…それだけじゃねぇよ。なんで肝心なことを分かってやれねぇんだよ!」


「肝心なこと…?」


「お前が帰ってくることをずっと待ってんだよ!!千隼くんが帰ってきたときにちゃんと出迎えたいって!!千隼くんは絶対帰ってくるって!!そう言ってお前の居場所を守ろうとしてんだよ!!」


…っ!!


「襲われてから1週間、嫌がらせのように毎日赤坂は部活に来る。それがどんなに苦痛か分かるか!?それでも、あいつは部活を休まなかった!!俺の前では強がって、大丈夫だ大丈夫だって言い張って!挙げ句、精神疲労でぶっ倒れて!」


千紘……。


俺のためになんで…っ。


「保健室の中で号泣してたよ。部活に行くのがツライって。でも、千紘は何があったのかは一切話さなかった!部内トラブルがあったことすら話さないでくれと泣きながら頭を下げて、野球部を守りたいんだって言い続けて…っ!!」


…千紘…。


「それなのにお前はっ!!なんで…っ!!!あいつの気持ちはいつになったら報われんだよ!!自分がどれだけ傷つこうとも、お前のために野球部を守り続けた千紘は、いつになったら楽になれるんだよ!!!いつ、アイツの努力が報われるんだよ…っ。もう見てらんねぇよ…っ」


俺のために……。


野球部のために…。


「なぁ…っ。俺じゃあいつの支えにはなれねぇんだよ…。千紘を守れるのはお前しかいねぇんだよ…っ。頼むから、あいつの側にいてやれよ…っ。そんぐらい、してやってくれよ…。あいつは俺たちのために自分を犠牲にしてんだ…。俺たちの夢のために。甲子園に行くために…っ」


俺は…身勝手に野球を捨てた。


千紘との関わりを絶とうとした。


だけど千紘は…っ。


そんな俺なんかのために自分を傷つけてまで野球部を守ろうと必死になって…。
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