雨降る日のキセキ
「千紘、今どこにいる?」


「保健室。…行くなら行けばいい。ただ、二度とあいつを傷つけんな。これ以上傷つく千紘を見たくない」


苦悩が滲み出ている瞳で力強く見つめられる。


「それと…、俺はお前にムカついてる。野球を捨てたくせに、どの面下げて野球部を眺めてんだって心底腹が立ってる。……でも…。戻って来いよ。待ってるから」


「翔吾……」


気まずそうに、翔吾は俺の背中を押す。


「ほら、早く行けよ」


「…今まで本当に悪かった」


翔吾がこうして話しかけて来なければ、俺は千紘の傷なんてこれっぽっちも気づかなかった。


千紘がどれほど俺を、野球部を、大切にしてくれているのか、痛いほど思い知らされた。


「ありがとな、翔吾」


「お前に礼言われるとキモい。早く行けっつってんだ」


翔吾はふっと笑って再び背中を押した。


もう逃げない。


過去の罪と、千紘と、向き合っていく。


自分を犠牲にしてチームを守ろうとした千紘へ、俺ができる唯一のことだから―。
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