雨降る日のキセキ
「千隼がんばーー!!」


ベンチからもスタンドからも大声援が送られている。


千隼くんはそれに応えるように、先頭打者から 三振を奪った。
 

そして、続く打者もキャッチャーフライに打ち取り、ツーアウト。


8回裏0-0、ツーアウト。


千隼くんの様子が一変したのがベンチからでもすぐに分かった。


タイムを要求し、何度も深呼吸をしている。


それを見た翔吾が即座にマウンドへ駆け寄る。


きっと、トラウマと戦っているんだ。


一度傷ついた心はそう簡単に修復できない。


乗り越えようと思えば思うほど、過去に囚われて余計に苦しくなる。


私にはその気持ちがよく分かる。


「千隼くん、頑張って…」


翔吾の声掛けに小さく頷いて、ボールを握り直す。


大丈夫。千隼くんなら大丈夫。


そして、3人目の打者。


初球を捉えられ、大飛球がセンターに飛ぶ。


いったかと思った打球は、ジャンプして目一杯腕を伸ばしたセンターのグローブに収まった。
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