雨降る日のキセキ
「千隼くん。前に私が言ったこと覚えてる?」


「覚えてるよ。母親のことなんか無視して私のことだけを愛して、だろ?」


なんだ、意地悪言う余裕あるんじゃん。


もっと追い詰められてるのかと思ってた。


過去を乗り越えられている証だ。


きっと、今の千隼くんなら大丈夫。


去年みたいなことにはならない。


『4番キャッチャー湯浅翔吾』


9回表の攻撃が始まった。


三塁側のスタンドから大声援が沸き起こる。


去年より一回り大きくなった翔吾の背中。


“1点ありゃ勝てるか?”


“点取ってやるから信じて待っとけ”


そう豪語した翔吾は今、どんなプレッシャーと戦っているんだろう。


きっと、計り知れない責任を背負って打席に立っている。


その背中を見せることで、千隼くんを力づけようとしているのかもしれない。
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