雨降る日のキセキ
相手打者がバッターボックスに入り、鋭く千隼くんを見つめる。


千隼くんは大きく息を吐いてからボールを握った。


翔吾のサインにしっかり頷き、モーションに入る。


パァーンッ


ミットが気持ちいい音を鳴らす。


ワァァァっと盛り上がるスタンド。


今日一番いいストレートが決まった。


「あいつ、9回なのに初回みたいな球投げるじゃん」


まさにその通りで、疲れなんて微塵も感じさせない完璧な投球で先頭打者から三振を奪う。


続く二人目もセカンドゴロに打ち取り、ツーアウト。


あとひとり。


あとアウトひとつ。


去年と同じところまで来た。


去年掴みかけた夢は、指の隙間からサラサラと逃げていってしまったけど、今年は逃さない。


千隼くんが大きく深呼吸をしてベンチを見る。


「千隼くん!落ち着いて!絶対大丈夫だよ!!」
< 325 / 336 >

この作品をシェア

pagetop