雨降る日のキセキ
千隼くんはいとも簡単にストライクをとっていく。


翔吾の構えた位置通りの場所にボールが吸い込まれる。


「コントロールよすぎ…」


真子ちゃんが感嘆の声を漏らす。


三球三振を奪っても表情一つ変えないポーカーフェイス。


朝陽くんだ……。


やっぱり似てる…。


ロジンに触れ、帽子を被り直す仕草も、キャッチャーからのサインに頷いたり首を振ったりするときの表情も。


私の記憶の中の朝陽くんとそっくりなんだ。


こんなに似てるのに、あれは朝陽くんじゃない。


どうして朝陽くんじゃないの…?


…やっぱり見たくない。


思い出したくないのに思い出してしまう。


もう忘れたいのに。


“ちぃちゃん、試合来てくれてありがとね”

“おかげでパワーもらっちゃった。ちぃちゃんのおかけで勝てたんだよ”


ポンポンっと頭を撫でてくれたときのあの温もり。


忘れなきゃ。


もういないんだよ…朝陽くんは…。
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