この度、筋肉バカ王子の教育係に任命されました
シャーロットは意地になっていた。
薄々、アレックスは同じベッドを使うと言い出すのではないかと思ってはいたし、素直に「一緒に寝させてくれ」と頼んでくればシャーロットだってそこまで意地を張らなかったのに、あの馬鹿王子。
(絶対戻ってやるものですか!)
人の胸を見て「つるペタ」なんて。気にしてるのに!
シャーロットはむかむかしながら廊下を一周して、それから部屋の前に戻ってきて唸った。部屋に戻りたくはないけれど、廊下をうろうろして一夜を明かすのはさすがに嫌だ。
(……どうせあいつ、わたしのベッドでぐーすか寝てるのよね。じゃあ、わたしだってあいつのベッドを占領してもいいはずよ!)
シャーロットはアレックスのベッドで眠ることに決めた。
アレックスの部屋に入ると、薄暗い部屋の中を進んでベッドにたどり着く。
(なんかどっと疲れたわ。寝よ寝よ)
シャーロットは欠伸を一つして、ベッドにもぐりこんだ。だが――
「殿下、お帰りなさいませ……!」
突然、ベッドからぬっと出てきた腕に羽交い絞めにされて。
「ぎゃああああああああ―――!」
シャーロットは、絶叫した。
「お化けお化けお化け―――!」
シャーロットは腕を振り回して泣き叫んだ。
「いやあああ―――!」
「ちょ、ちょっとっ、いたっ、こら暴れないで! ちょっと!」
お化けが近くで悲鳴を上げているが、シャーロットはそれどころではない。
お化けが出たと大騒ぎをしていると、バタバタと大きな足音がして、アレックスが飛び込んできた。
「どうした!?」
シャーロットはアレックスの声を聞くなりベッドから飛び降りた。
「おばけええええええっ」
「はあ?」
アレックスは腕に飛び込んできたシャーロットを抱きしめて、暗闇に目を凝らした。ベッドの上に誰かがいる気がする。アレックスは警戒して、ベッドの上の不審者を問いただそうとしたが、シャーロットがびーびー泣きながら騒いでそれどころではなかった。
「ベッドからぬって! ぬって手が出たっ! 手が出た―――!」
「わ、わかったから落ち着け!」
「ベッドなのにっ。手、手が、手が生え……」
「大丈夫だ、大丈夫だから!」
「ベッドに手が生えた―――!」
「生えるか!」
アレックスはシャーロットを抱きしめてなだめながら、ベッドに近寄ると、サイドテーブルの上にあるランプに明かりをつけ――、目を剥いた。
「なっ、どうしてお前がここにいるんだ!」
シャーロットはアレックスにしがみついたまま首を巡らせて背後を見、そして目を丸くする。ベッドの上には、ブルネットの髪の小柄な女性が、どっと疲れたような顔をして座っていた。どうやらシャーロットがお化けだと思ったのは彼女だったらしい。途端に恥ずかしくなって、シャーロットは両手で顔を覆った。
「どうしてと言われても、殿下がお昼にお逃げになったからこうして待ち伏せしていたんですわ」
はあ、と息を吐きながら女性が言う。
シャーロットは指の隙間から女性の姿を伺って、ピンときた。ブルネットの小柄な女性。カミラ夫人だ。間違いない。だってメロンを二つ詰めたみたいに胸が大きい!
シャーロットはむっとした。カミラ夫人が「待ち伏せ」していたのは閨の授業のためだ。冗談じゃない。
「殿下、いつまでもお逃げになっていても仕方がございませんわよ?」
カミラ夫人が嫣然と微笑む。
シャーロットはますますむっとした。
「殿下にそんないかがわしい授業は必要ありません!」
するとカミラ夫人はシャーロットに視線を移して、にっこりと微笑んだ。
「あら、それをお決めになるのは陛下ですわ。わたくしは陛下のご命令で来ているだけですもの」
シャーロットはうぐっと言葉に詰まった。シャーロットだって国王の命令で、嫌がるアレックスの教育係をしていたことがある。「教育」の内容が違いすぎるが、シャーロットにとやかくいう資格はない。
シャーロットが負けそうになっていると、アレックスが彼女の肩を抱いて言った。
「俺はシャーロット以外の女はいらん」
「あら、ではそちらの婚約者様がお相手を?」
「へ?」
「わたくしは別にかまいませんわよ? お教えできればそれでいいのですから、婚約者様をお相手にされると言うのであれば、わたくしは横で――」
「わああああああっ」
シャーロットはこれ以上聞いていられなくなって耳をふさいで叫んだ。
カミラ夫人は虚を突かれたような顔をして、それからくすくすと笑いだす。
「あらあら、かわいらしい」
カミラ夫人はベッドから降りると、薄い夜着の上にガウンを羽織った。
「まあ、今日のところは帰りますわ。それでは、また」
カミラ夫人が部屋から出ていくと、アレックスは息を吐き出して、耳を塞いでいるシャーロットの手を引っぺがした。
「ったく、いい加減落ち着け!」
そんなことを言われても落ち着けるはずはない。
シャーロットはアレックスを見て、ぼんっと顔から火が出そうなほどに真っ赤になると、その場にへなへなと頽れた。
薄々、アレックスは同じベッドを使うと言い出すのではないかと思ってはいたし、素直に「一緒に寝させてくれ」と頼んでくればシャーロットだってそこまで意地を張らなかったのに、あの馬鹿王子。
(絶対戻ってやるものですか!)
人の胸を見て「つるペタ」なんて。気にしてるのに!
シャーロットはむかむかしながら廊下を一周して、それから部屋の前に戻ってきて唸った。部屋に戻りたくはないけれど、廊下をうろうろして一夜を明かすのはさすがに嫌だ。
(……どうせあいつ、わたしのベッドでぐーすか寝てるのよね。じゃあ、わたしだってあいつのベッドを占領してもいいはずよ!)
シャーロットはアレックスのベッドで眠ることに決めた。
アレックスの部屋に入ると、薄暗い部屋の中を進んでベッドにたどり着く。
(なんかどっと疲れたわ。寝よ寝よ)
シャーロットは欠伸を一つして、ベッドにもぐりこんだ。だが――
「殿下、お帰りなさいませ……!」
突然、ベッドからぬっと出てきた腕に羽交い絞めにされて。
「ぎゃああああああああ―――!」
シャーロットは、絶叫した。
「お化けお化けお化け―――!」
シャーロットは腕を振り回して泣き叫んだ。
「いやあああ―――!」
「ちょ、ちょっとっ、いたっ、こら暴れないで! ちょっと!」
お化けが近くで悲鳴を上げているが、シャーロットはそれどころではない。
お化けが出たと大騒ぎをしていると、バタバタと大きな足音がして、アレックスが飛び込んできた。
「どうした!?」
シャーロットはアレックスの声を聞くなりベッドから飛び降りた。
「おばけええええええっ」
「はあ?」
アレックスは腕に飛び込んできたシャーロットを抱きしめて、暗闇に目を凝らした。ベッドの上に誰かがいる気がする。アレックスは警戒して、ベッドの上の不審者を問いただそうとしたが、シャーロットがびーびー泣きながら騒いでそれどころではなかった。
「ベッドからぬって! ぬって手が出たっ! 手が出た―――!」
「わ、わかったから落ち着け!」
「ベッドなのにっ。手、手が、手が生え……」
「大丈夫だ、大丈夫だから!」
「ベッドに手が生えた―――!」
「生えるか!」
アレックスはシャーロットを抱きしめてなだめながら、ベッドに近寄ると、サイドテーブルの上にあるランプに明かりをつけ――、目を剥いた。
「なっ、どうしてお前がここにいるんだ!」
シャーロットはアレックスにしがみついたまま首を巡らせて背後を見、そして目を丸くする。ベッドの上には、ブルネットの髪の小柄な女性が、どっと疲れたような顔をして座っていた。どうやらシャーロットがお化けだと思ったのは彼女だったらしい。途端に恥ずかしくなって、シャーロットは両手で顔を覆った。
「どうしてと言われても、殿下がお昼にお逃げになったからこうして待ち伏せしていたんですわ」
はあ、と息を吐きながら女性が言う。
シャーロットは指の隙間から女性の姿を伺って、ピンときた。ブルネットの小柄な女性。カミラ夫人だ。間違いない。だってメロンを二つ詰めたみたいに胸が大きい!
シャーロットはむっとした。カミラ夫人が「待ち伏せ」していたのは閨の授業のためだ。冗談じゃない。
「殿下、いつまでもお逃げになっていても仕方がございませんわよ?」
カミラ夫人が嫣然と微笑む。
シャーロットはますますむっとした。
「殿下にそんないかがわしい授業は必要ありません!」
するとカミラ夫人はシャーロットに視線を移して、にっこりと微笑んだ。
「あら、それをお決めになるのは陛下ですわ。わたくしは陛下のご命令で来ているだけですもの」
シャーロットはうぐっと言葉に詰まった。シャーロットだって国王の命令で、嫌がるアレックスの教育係をしていたことがある。「教育」の内容が違いすぎるが、シャーロットにとやかくいう資格はない。
シャーロットが負けそうになっていると、アレックスが彼女の肩を抱いて言った。
「俺はシャーロット以外の女はいらん」
「あら、ではそちらの婚約者様がお相手を?」
「へ?」
「わたくしは別にかまいませんわよ? お教えできればそれでいいのですから、婚約者様をお相手にされると言うのであれば、わたくしは横で――」
「わああああああっ」
シャーロットはこれ以上聞いていられなくなって耳をふさいで叫んだ。
カミラ夫人は虚を突かれたような顔をして、それからくすくすと笑いだす。
「あらあら、かわいらしい」
カミラ夫人はベッドから降りると、薄い夜着の上にガウンを羽織った。
「まあ、今日のところは帰りますわ。それでは、また」
カミラ夫人が部屋から出ていくと、アレックスは息を吐き出して、耳を塞いでいるシャーロットの手を引っぺがした。
「ったく、いい加減落ち着け!」
そんなことを言われても落ち着けるはずはない。
シャーロットはアレックスを見て、ぼんっと顔から火が出そうなほどに真っ赤になると、その場にへなへなと頽れた。