呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
馬車に乗り込み、ほんの少しだけ待つとロウさんが戻ってきた。



「ガイウス様、リーファ様のご実家はどういたしましょうか?」



そうだ。実家に結婚したことを言わないといけない。そう思ったがガイウス様は違っていた。



「ほっとけばいい。娘が呪われこんな状態なのに、家にも連れて帰らずに荷物さえ持って来ない。まともな親とは思えん。何かあればクローリー公爵家に楯突いて来いとでも言っておけ」

「畏まりました。では、すぐに出発致しましょう」



まともな親とは思えない……ガイウス様の言うとおりだと思う。

呪われてから一度も家には帰れなかった。

日中に家族がアーサー様とどんな話をしたのかはわからないけど、連れて帰ろうと思うことはなかっただろう。



馬車が走り出すとやっとこの邸から……この街からさよなら出来る。未練はなかった。

だから、振り返ることもない。



窓際に踞るように凭れていると、急に首筋にガイウス様の指が触れた。それに思わずビクッとした。



「意に沿わぬものを付けられたか……?」



ガイウス様がバルコニーで助けてくれた時もじっと見ていたから首筋の痕に気付いていたのだろう。

そして、思い出すとまた胸が苦しくなり、泣きながら頷いた。



「……痕はいずれ消える。その頃にはアーサー様のことも忘れられる……」



ガイウス様は、身に付けていたマントを首筋の痕を隠すように私の頭から掛けた。



「宵闇の街には、馬車で5日ほど掛かる。日中に寝ている間も移動するが、馬車の中でもゆっくり休みなさい」

「はい……ありがとうございます……旦那様」



マントの中に隠れたまま、必死で声を絞り感謝した。



何日もあのアーサー様の邸にいて、誰も助けてくれなかった。

そんな邸から、ガイウス様だけが私を助けてくれた。

この方の為に頑張ろうと思うには、私には充分な理由だった。



そして、夜には道中の宿に泊まり、日中は馬車の中で眠り移動を続けていた。

ガイウス様は道中の街で何もなかった私に首筋の隠れる洋服も買って下さり、ずっと気遣って下さっていた。

お礼を言うと、妻に買うのは当然だ、とぶっきらぼうに言うのが、恩着せがましくなく、私に気にするなと言っているように聞こえた。





そして、5日目の夜にやっと宵闇の街、ガイウス様のお邸に到着した。



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