呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
ジュリア様にスライディングされた日は目が覚めると何故か旦那様の部屋だった。
廊下で倒れたまま眠ってしまったのかと思ったがどうやらジュリア様に乗っ取られていたらしい。
私のクローゼットまでぐちゃぐちゃにあさりナイトドレスに着替えて何をする気だったのか。
何があったのかよくわからないけど旦那様はいつも通りだったから何もなかったのだろう。
そのジュリア様は、旦那様にお仕置きだと言われて今は地下に籠っている。
そして、毎朝私と旦那様は夜も明けぬうちから一緒にパン屋に来ている。
「いつ来てもいい匂いですね。私も早くパンが焼けるようにしますね」
「料理人も来るからもう料理をする必要ないんじゃないか?」
「毎日は無理でも、少しはしたいですね」
旦那様と話しているうちにパンは紙袋に詰められ渡された。
パン屋の夫婦は、どうぞとパンを旦那様に渡し、いつ見ても微笑ましく私達を見る。
いつの間にか私と旦那様は仲良し夫婦に思われているらしい。
まさか私と旦那様が白い結婚だとは思ってもないだろう。
夜も旦那様が買い物や食事に連れて行ってくれる事もある。
宵闇の街は夜が長いから、レストランも夜遅くまで開いている所もあり、私には丁度良い街だと思う。
ロウさんが料理人さんの救出に行かれてもう10日以上も経つ。その間旦那様は私に合わせてくれているようで少しずつ夜に起きている時間を延ばし、日中に寝る事が増えたようだった。それでも全く夜に寝ないわけではないから、朝起こすのは大変だった。
そして朝食を一緒に摂り、片付けも一緒にし、私は眠る為にベッドに入る時間になる。
ジュリア様の一件があってからか特に旦那様は部屋まで送ってくれることが増え、今朝も来てくれていた。
「リーファ、少し働きすぎじゃないか? たまには休んだほうがいいだろう。さぁ寝なさい……」
「でも、ロウさんはもっと働いてますよ?」
「……ロウは基準にしないほうがいい」
「でも、もっと旦那様の役に立ちたいのです」
「充分助かっているが……」
でも、白い結婚だとわかればなおさら頑張らないといけないと思う。
旦那様には私と結婚するメリットはなかったのだから。
「……旦那様、私に気を遣う事はありません。旦那様の為に私が頑張りたいのです。アーサー様から助けてくれた旦那様に出来る事は、私にはこれしかないですし……仮の妻に旦那様が気を遣う事はありませんよ」
「仮……?」
「旦那様は陛下に言われて私と結婚したんですよね?陛下は私がアーサー様と釣り合わないから、懸念していたのでしょう」
そのおかげで私はアーサー様と引き離されて助かりましたけど……。
旦那様は考え込むように隣に座っていいか、と聞いて来た。
旦那様のこんなところが好きだ。アーサー様のように図々しく私に触れることもない。
そして、私が座るベッドサイドに旦那様も腰を下ろした。
「……確かに陛下はそれも気にしていたが、リーファに申し訳ないと思っていたのもある。それと、リーファを仮の妻と思った事はない。リーファの事は一生守っていこうと思っている」
「でも、陛下に頼まれたから結婚したのでは……」
「頼まれはしたが、リーファじゃなかったら保護するだけで結婚まではしなかった」
「……白い結婚では?」
「どうも無駄に頑張っていると思ったらそんな事を思っていたのか……」
いつもお化けに動揺もしない旦那様が、珍しくため息を吐いた。
でも旦那様にアピールなんてされた事はなかった。
初めて朝起こしに行った時は思いもよらない事が起きたけど、あれが私に対しての好意かと言われれば、よくわからないとしか言えない。
その後も旦那様から何か好意を向けられていないのだから。
ただ、いつも私に親切にしてくれる方だとは思っている。でも、私は旦那様の女性の接し方なんて知らないから、旦那様が私を特別だと思っているのかどうか判断がつかないのだ。
「……リーファの事は可愛いと思っている。白い結婚にするつもりもない」
旦那様の言葉に仄かなものが心臓を動かした気がした。
そして、旦那様に可愛いと思われていたとは思いもよらなかった。
「私……急に来たから白い結婚だと……」
「違う……リーファの事は好いている」
「本当ですか?」
「女に好きだと言った事はない。リーファだけだ」
嘘を言っているようには見えない。それに旦那様が女に好きだ好きだと近づくような軽薄な方には全く見えない。
「リーファ……本当の夫婦にならないか?」
そっと私の手を掬うようにされ、旦那様の唇に指が触れる。
そして、本当の夫婦にならないかという事は閨を共にしようと言う事だろう。夫婦なら当然の営みだ。
でも、もう少し待って欲しい気持ちもある。流されたい気持ちがないわけではないが、急な告白に戸惑いがないわけでは無かった。
「旦那様の事は好きです……将来そうなりたいとも思います。でも……もう少し待って頂いたら……」
「焦るつもりはない。すぐに受け入れられないのもわかる」
「すみません……」
「リーファのせいじゃない……せめて一緒にいてもいいか?」
「はい……隣にいて下さい」
この日、初めて旦那様と一緒にベッドに入った。それでも旦那様は私の嫌がる事も無理やり手を出す事もない。
ただ、一緒に眠っただけ……。優しい添い寝だった。
それでも旦那様のぬくもりは心地良かった。
でもこの日、夫婦にならなかった事を後悔することになるとは、この時は思わなかった。
廊下で倒れたまま眠ってしまったのかと思ったがどうやらジュリア様に乗っ取られていたらしい。
私のクローゼットまでぐちゃぐちゃにあさりナイトドレスに着替えて何をする気だったのか。
何があったのかよくわからないけど旦那様はいつも通りだったから何もなかったのだろう。
そのジュリア様は、旦那様にお仕置きだと言われて今は地下に籠っている。
そして、毎朝私と旦那様は夜も明けぬうちから一緒にパン屋に来ている。
「いつ来てもいい匂いですね。私も早くパンが焼けるようにしますね」
「料理人も来るからもう料理をする必要ないんじゃないか?」
「毎日は無理でも、少しはしたいですね」
旦那様と話しているうちにパンは紙袋に詰められ渡された。
パン屋の夫婦は、どうぞとパンを旦那様に渡し、いつ見ても微笑ましく私達を見る。
いつの間にか私と旦那様は仲良し夫婦に思われているらしい。
まさか私と旦那様が白い結婚だとは思ってもないだろう。
夜も旦那様が買い物や食事に連れて行ってくれる事もある。
宵闇の街は夜が長いから、レストランも夜遅くまで開いている所もあり、私には丁度良い街だと思う。
ロウさんが料理人さんの救出に行かれてもう10日以上も経つ。その間旦那様は私に合わせてくれているようで少しずつ夜に起きている時間を延ばし、日中に寝る事が増えたようだった。それでも全く夜に寝ないわけではないから、朝起こすのは大変だった。
そして朝食を一緒に摂り、片付けも一緒にし、私は眠る為にベッドに入る時間になる。
ジュリア様の一件があってからか特に旦那様は部屋まで送ってくれることが増え、今朝も来てくれていた。
「リーファ、少し働きすぎじゃないか? たまには休んだほうがいいだろう。さぁ寝なさい……」
「でも、ロウさんはもっと働いてますよ?」
「……ロウは基準にしないほうがいい」
「でも、もっと旦那様の役に立ちたいのです」
「充分助かっているが……」
でも、白い結婚だとわかればなおさら頑張らないといけないと思う。
旦那様には私と結婚するメリットはなかったのだから。
「……旦那様、私に気を遣う事はありません。旦那様の為に私が頑張りたいのです。アーサー様から助けてくれた旦那様に出来る事は、私にはこれしかないですし……仮の妻に旦那様が気を遣う事はありませんよ」
「仮……?」
「旦那様は陛下に言われて私と結婚したんですよね?陛下は私がアーサー様と釣り合わないから、懸念していたのでしょう」
そのおかげで私はアーサー様と引き離されて助かりましたけど……。
旦那様は考え込むように隣に座っていいか、と聞いて来た。
旦那様のこんなところが好きだ。アーサー様のように図々しく私に触れることもない。
そして、私が座るベッドサイドに旦那様も腰を下ろした。
「……確かに陛下はそれも気にしていたが、リーファに申し訳ないと思っていたのもある。それと、リーファを仮の妻と思った事はない。リーファの事は一生守っていこうと思っている」
「でも、陛下に頼まれたから結婚したのでは……」
「頼まれはしたが、リーファじゃなかったら保護するだけで結婚まではしなかった」
「……白い結婚では?」
「どうも無駄に頑張っていると思ったらそんな事を思っていたのか……」
いつもお化けに動揺もしない旦那様が、珍しくため息を吐いた。
でも旦那様にアピールなんてされた事はなかった。
初めて朝起こしに行った時は思いもよらない事が起きたけど、あれが私に対しての好意かと言われれば、よくわからないとしか言えない。
その後も旦那様から何か好意を向けられていないのだから。
ただ、いつも私に親切にしてくれる方だとは思っている。でも、私は旦那様の女性の接し方なんて知らないから、旦那様が私を特別だと思っているのかどうか判断がつかないのだ。
「……リーファの事は可愛いと思っている。白い結婚にするつもりもない」
旦那様の言葉に仄かなものが心臓を動かした気がした。
そして、旦那様に可愛いと思われていたとは思いもよらなかった。
「私……急に来たから白い結婚だと……」
「違う……リーファの事は好いている」
「本当ですか?」
「女に好きだと言った事はない。リーファだけだ」
嘘を言っているようには見えない。それに旦那様が女に好きだ好きだと近づくような軽薄な方には全く見えない。
「リーファ……本当の夫婦にならないか?」
そっと私の手を掬うようにされ、旦那様の唇に指が触れる。
そして、本当の夫婦にならないかという事は閨を共にしようと言う事だろう。夫婦なら当然の営みだ。
でも、もう少し待って欲しい気持ちもある。流されたい気持ちがないわけではないが、急な告白に戸惑いがないわけでは無かった。
「旦那様の事は好きです……将来そうなりたいとも思います。でも……もう少し待って頂いたら……」
「焦るつもりはない。すぐに受け入れられないのもわかる」
「すみません……」
「リーファのせいじゃない……せめて一緒にいてもいいか?」
「はい……隣にいて下さい」
この日、初めて旦那様と一緒にベッドに入った。それでも旦那様は私の嫌がる事も無理やり手を出す事もない。
ただ、一緒に眠っただけ……。優しい添い寝だった。
それでも旦那様のぬくもりは心地良かった。
でもこの日、夫婦にならなかった事を後悔することになるとは、この時は思わなかった。