呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
もう日が沈んだ時間だが、今夜はまだアーサー様は来られてなかった。

そこに廊下から、ドアを開けろと使用人や警備に命令する声がする。



使用人たちは逆らえきれなかったのか、しぶしぶドアを開いた。



ドアを開け、入って来たのは、アーサー様よりも薄い茶色の髪のがっしりとした男性だった。



「君がリーファ・クローリーか……?」

「どなたですか?」



男性はドアを閉め、私をドアから離れた窓際に来るように手招きした。



「俺は、第1王子のニールだ」

「アーサー様の兄上様?」

「そうなるが……決して君とアーサーを応援しているわけではない」



アーサー様の兄上と聞いて、身構えた私に気付いたように言った。



「父上に頼み、アーサーは今は父上の見舞いに行くようにしている。すぐに帰って来るかもしれないから、長話は出来ないが……すまない」



ニール殿下は申し訳なさそうに謝罪して来た。



「アーサー様の兄上様なら、私をここから出してください! 第1殿下ですよね!? どうかお願いします!」

「……それは出来ない」

「どうしてですか!? アーサー様と私を応援してないなら、私を閉じ込める理由はないはずです!」

「俺にはその権限がない。……第1殿下とは名ばかりなのだ」



ニール殿下は悲しそうに、そう言った。

その時、アーサー様が次期王だと言っていたことを思い出した。



「……第1殿下ではないのですか? アーサー様は次期王は自分だと……」

「アーサーの兄であることは間違いない。だが……俺は亡き王妃の子ではないのだ」



そんなことを聞いたことはなかった。

陛下と王妃には、王子が二人だった。



「……じゃあ、あなたはどなたですか?」

「俺は、陛下の妾の子だ……」

「そんなはずは……王妃様が王子二人をもうけていたはずです……!」

「……亡き王妃は、妾の子が許せず、自分の子としたのだ。国に妾が陛下の子を身籠ったと知られたくなかったのだ」



妾の子が許せなかったらしいが、暗殺されなかったのは、亡き王妃が陛下の子を殺せなかったかららしい。

亡き王妃は陛下を愛していたのだろうか。



「……陛下に私を解放するようにお頼みは出来ないのですか?」

「アーサーが次期王だと言ったのなら、君には話すが、父上の死期は近い」

「ご病気で……?」

「……亡き王妃との契約を破ったから、呪いに蝕まれている。もうどうしようもない。父上も受け入れているのだ」

「王妃様が陛下に呪いを……?」



言葉に詰まり、驚いてしまう。

そんな私に、ニール殿下は話を続けていた。



「王妃と父上の契約は、アーサーを次期王にすることだった。俺の母に嫉妬していた王妃は俺を次の王にしたくなかったのだ。俺も王になるつもりもない。だから、予定通り、隣国の第3王女アーシャと結婚し、いずれ国を出るつもりだった。その為に、アーシャと婚約を結んでいたのに、あろうことか、父上とアーサーは、第1王子である俺が王位につくのが良いと言い出した。それが自然だと……周りは俺が妾の子だと知らないから、父上に進言をしていたのだろう」



確かに、第1王子が他国の第3王女を娶り国を治めるのが自然と思えるが、ニール殿下は第1王子でありながら他国に行き、第3王女と結婚するのだ。

第3王女なら、他国の王にもなれない。

ただの公爵ぐらいだろう。



「俺を次期王にする必要はないと言っていたのに、父上とアーサーは止めなかった。そして、あの契約書の呪いが発動してしまった。すぐに、アーサーと俺は、呪いを戻そうと、契約書通りに俺を次期王にすることは諦めたが、呪いは戻らなかった。……今も、父上の側には亡き王妃が亡霊のように立っているらしい」



亡き王妃は約束をたがえられて、恨みでいるのかもしれない。

ニール殿下はどこか苦しそうだった。



「……でも、アーサー様は?」

「俺とアーサーは契約書のことは知らなかったのだ。呪いが発動してはじめて知り、アーサーは自分のせいで父上がこんなことになったと、自責の念に囚われてしまった。俺がいるから、こんなことが起きるのだと、すぐに国を出て隣国に行ったが、何も変わらない。アーシャとの結婚も早めてもらうようにもしたんだが……」



陛下は呪いはあることは知っていても、ここまでひどいものとは、思わなかったのかもしれない。



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