呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
「キャアァァーー!!」
旦那様のヘルハウスにいたお化けたちと全然違う!
だだ怖いんじゃない!
これはダメだ!
怒りが強すぎて、身体中が震える。
「リーファ!? どうしたんだ!? しっかりしろ!?」
この場で、一人だけなんともないアーサー様が、震える私を抱きしめた。
そのおかげか、図らずもアーサー様がどす黒いモヤモヤから庇ったようになり、それ以上どす黒いモヤモヤは来なかった。
アーサー様を振り払えないほど、このどす黒いモヤモヤが怖い。
ニール殿下は、私たちを見て、これ以上ここに居られないと悟ったのか苦しそうに立ち上がった。
「……アーサー、俺はもう帰る。彼女を傷つけるな」
「やはり、城に泊まらないのですか……?」
「俺はここにいてはならない。そう決めたはずだ」
ニール殿下は、そう言って胸を押さえながら部屋を後にした。
苦しいままで汗も流れていた。
アーサー様は私を腕に抱きしめたまま、ニール殿下の立ち去る後ろ姿を切なく見ている。
「アーサー様……ニール殿下はどちらに?」
「……昔、家庭教師をしてくれていた伯爵家に滞在させてもらっている」
どす黒いモヤモヤは、ニール殿下が居なくなったからか、段々と薄くなり、窓に向かって煙のように消えた。
ニール殿下はここに居ることすら、出来ないのだ。
そして、多分ここはお城の宮だ。
街の邸じゃない。王族が住む宮で、もしかしたら、本当に一番奥の妾を囲う宮のような気がした。
「……リーファ、何か見えたのか?」
ニール殿下が居なくなり、静かになったままアーサー様の腕の中でそう聞かれた。
アーサー様の香水か、何だか甘い匂いがし我に返った。
「離れてください!」
「先に答えろ!」
言ってもいいのか少し悩んだ。
でも、アーサー様も亡き王妃の亡霊がいることは知っている。
「……どす黒いモヤモヤが……ニール殿下に……」
「……母上か?」
「おそらくそうだと思います……」
アーサー様は、悲しそうでその上、亡き王妃に怒っているように見えた。
こんな顔のアーサー様は初めてだ。
「……今夜は一人でいてくれ。何かあれば、廊下の使用人を呼ぶんだ。すぐに来る」
一人でいるのは、問題ない。
白ちゃんもいるし、アーサー様がいない方が安心だ。
アーサー様は静かに私を離し、奥歯を噛み締めるように部屋から出ていった。