呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
ニール殿下が訪ねてから2日目。



日が沈み、目が覚めるとすぐに軽食を摂らされて、念入りに湯浴みをさせられる。

嫌だと言っても、誰も手を止めない。

いつもなら、湯浴みに侍女たちは三人もいなかったのに……。



嫌な予感がした。

ニール殿下が結婚式の為に帰って来たから、アーサー様の結婚式が近いとは思っていたけど……きっと今日が結婚式だったのだ。



私は日中は、どんなことをしても、目が覚めないから、結婚式で騒がれてもわからない。

そして、この湯浴みは初夜の準備だ。

どうして、私が他人の初夜に身体を差し出すのか……。



侍女たちは、私がどんな表情になっていても、身体を磨きあげている。

終われば、身体を柔らかい大きなタオルで包み、水気が無くなれば白いナイトドレスに身を包む。

身体に塗る香油も忘れない。

きっとアーサー様の好きな香油なのだろう。



「……それは、花嫁に使ってください」

「お召しになるのはリーファ様です」

「私は花嫁じゃありません!」



その言葉にアーサー様に忠実な侍女は腹が立ったのか、エンパイアラインのナイトドレスの胸の下のリボンに力を入れて縛る。



「支度が整いました」

「行きたくありません」

「それは、許されません」

「嫌だと言っているのです!初夜は花嫁のものです!」

「アーサー様の何が不満なのです!国中の令嬢がこぞって寵を欲しがるような方ですよ!」



目付きの悪い侍女がとうとう怒りを吐き出すように怒鳴った。



「私は寵が欲しいなどと、思ったことなんてありません!無理やり連れて来られたのですよ!」



アーサー様は可哀想だとは思う。

でも、受け入れられないものは受け入れられない。私には旦那様がいるのだ。

……その旦那様は来なかった。

きっと間に合わなかったのだ。



「……一人にしてください」



旦那様を思うと涙が出る。何故夫婦にならなかったのだと後悔ばかりだ。

顔を両手で覆い、溢れた涙は止まらない。



「アーサー様がお待ちです」



侍女たちは私を一人にさえしてくれない。



「……顔を洗って来ます」



そう言って、涙を拭き行った。

洗面所には白ちゃんが漂っていた。

素直にアーサー様に召されるのは耐えられなかった。旦那様が来てくれると、微かな望みにかけたいのだ。



洗面所の上棚の奥に、ニール殿下から頂いたものを隠していた。

白ちゃんがここは、掃除の人も見ないと身振りで教えてくれていたから。



ナイトドレスは肩も鎖骨も露になったもので胸の間には隠せなかった。

仕方なく、腰の大きなリボンの結び目に隠すが不安ばかりだ。



「白ちゃん……旦那様を見て来て。これが最後の望みなの……」



そして、侍女たちはすぐに出てくるようにといわんばかりに声をかける。

私は、そのまま前後左右を固められてアーサー様のいる部屋へと歩かねばならなかった。





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