呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!

「旦那様……どちらに?」

「馬でこの街を出る」



旦那様は私を抱き上げたまま、庭を抜けてひたすら走っている。

向かっている先には、客人が出入りする為の裏口なのか、他国の警備らしき人が立っている。



「ガイウス様! こちらです!」



走る先には、まだ若いきらびやかなドレスの女性がいた。



「ガイウス様、馬の準備は出来てます。連れて来た馬で一番早い馬です」

「助かります」



女性は一頭の馬をいつでも出発出来るように、待っていた様子だ。



「リーファ、こちらはニールの婚約者のアーシャ王女だ」

「こちらがニール殿下の……」



アーシャ王女が私たちの為に、早馬を準備しており、私に辛かったでしょうと、慰めの言葉をかけてくれた。

ニール殿下は、手助けはすると言ったから、王女にまで頼み、私たちを逃がそうと手筈を整えていたのだ。



そして、もう一人。

びっくりするぐらい整った容姿の男性がいた。



「ガイウス、闇魔法で包むと死霊が寄ってくるかもしれんぞ。お前が、あちこちで死霊を起こして廻ったから……」

「かまわない。リーファなら大丈夫だ」

「……お化けが来るのですか?」

「寄って来ても大丈夫だろ? 見つからずに逃げるのが先決だ」



ちょっと怖い……。

しかも起こして廻ったとは……?



「オズワルド、すぐに闇魔法で俺たちを隠してくれ」

「リディアなら、あんなにお化けが出たら気絶するぞ……大体、何で第2殿下にはろくなやつがおらんのだ」



チッと舌打ちしたオズワルド・ブラッドフォードと呼ばれた方は、他国の魔法使いで奥様のリディア様は大層お化け嫌いだと思い出すように話した。

オズワルド様はアーサー様の結婚式でわざわざ他国から来ており、オズワルド様は旦那様の友人で私たちが見つからずに逃げることができるように魔法をかけてくれるらしい。

闇に紛れて逃げられるように。



「旦那様……」



馬に旦那様と乗せられ、私たちはオズワルド様の闇魔法で、包まれた。

真っ暗な膜が闇夜に隠してくれるように見えた。



「長くはもたんぞ。街を出るくらいまでだろうが……」

「充分だ。足止めもある」

「足止め?」

「アーサー様と同じことをする。俺が使うのは私兵じゃなくてお化けだが、逃走先を特定されないように、何人ものお化けをカモフラージュするようにしている。お化けも着られる特殊な布を準備するのに、少々手間取ってしまって……遅くなって悪かった」



アーサー様にしてやられたと、根に持っているのか、私が宵闇の街から連れ去られた時と同じことを旦那様はするらしい。

そして、私達のフリをした特殊な布でマントを作りお化けがそれを羽織り逃げることになっていた。



「アーシャ様、オズワルド様。ありがとうございます」

「リーファ様。ニール様を恨まないでくださいね。ニール様はアーサー様も守りたいのです」

「恨んだりしません。ニール殿下には感謝しています」



心配そうに話すアーシャ様はニール殿下を本当に慕っているのだろう。

私に、もっと早く助けられなくてごめんなさいと言っているように聞こえる。



「ガイウス、早く行け。この場所もいつまでも闇で隠していたらバレるぞ」

「わかっている」



旦那様たちが待ち合わせしたこの場所は、オズワルド様が、周りから見えないように闇で隠しているらしい。魔法を使っているのに、更に私たちに魔法をかけるオズワルド様はハイクラスの魔法使いじゃないだろうか。



そして、私は旦那様に抱きつくようにしがみついた。それを、旦那様は振り払ったりせずに、優しく抱き止めてくれた。



「リーファ、行くぞ」

「はい、旦那様」



私たちはアーシャ様とオズワルド様に見送られながら、早馬でこの城を去った。

人の少ない道を事前に選んでいたからか、馬は止まらずに走る。

オズワルド様の闇魔法のせいか、通りすがりの人さえ気付かずに駆けていた。



途中にポツリと雨が降りだすが、止まることなく私と旦那様はこの街を去った。







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