呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
キャシー様を問い詰める旦那様を見上げると金の瞳は凄みを増しているように見える。

その金の瞳に凄まれたキャシー様はロウさんに抑えられたまま、苦渋の表情で視線を落とした。



「魅了の薬をアーサー様に盛ったか? 部屋に入った時に甘い匂いがした。だが、何故自分にかけない? 何か魔法もかけたのか?」



確かに魅了の薬が使えるなら自分を好きになってもらえばいい。そうすれば、すぐに結婚だってできただろうに、しかも私を妾として迎えるなんてなかったはずだと思う。

ギリッと歯ぎしりをするキャシー様に、ロウさんは冷たい目で後ろから抑えたまま見下ろし、「白状させましょうか? やり方は色々ありますよ」と抑揚のない言葉を吐いた。

その言葉に、手荒なまねをするのかとゾッとしたが、抑えられているキャシー様はもっと恐怖を感じている。

そして、目を伏せていたキャシー様は、抑えられたまま私を憎々しそうに睨んできた。



「あなたが邪魔したからでしょう!? だからこんなややこしいことになったんでしょう!!」

「私は何も……」

「リーファがアーサー様に何かするわけがないだろう」



旦那様が呆れたように言い、キャシー様は溜まっていた怒りが溢れるように話し出した。



「初めて薬を盛った時も、アーサー様が最初に見た女はリーファよ! 本当なら私がアーサー様の目に映るはずだったのに……!」

「アーサー様と最初にお会いしたのは夜会ですよ!? 私は薬なんか……」



あの夜会ではずっと私は壁の花で、会場にいるのも場違いな気がしてバルコニーに出たら,あとから来たアーサー様に声をかけられただけだ。

薬どころかあの時はアーサー様とドリンク一つ飲まなかったはず。いくら思い出してもそんな記憶はない。



困惑する私に、キャシー様は話を続けていた。



 あの夜会の日、キャシー様もアーサー様を取り囲んでいた集団にいたらしく、アーサー様に薬を盛る機会をずっと狙っていたのだ。

そして、取り囲んでいるご令嬢の集団から「ちょっと失礼……」と言って、急にアーサー様は集団から出たらしい。

そして、バルコニーに行こうとしていたと……。

 それは、私を誘うためだろう。あの時、ダンスに誘われていたのを覚えている。

私はアーサー様に興味すらなかったから、誘いにのるどころか、逃げてしまったけど……。

 その時、キャシー様はバルコニーに行く前に、隠し持っていた薬をほんの数滴シャンパングラスにバレないように入れてアーサー様に渡し、それをアーサー様が飲み干したらしい。

その間もアーサー様はバルコニーをずっと見ていたらしい。

 だから、キャシー様が何か盛っているのも気付かなかったのだろう。

 そもそも、気付かれるように盛るとはおもわない。むしろ、そんな隙ができたから、薬を盛ることが出来たのでさえ思う。



「やっと薬を飲ませられたのに、アーサー様は私どころか誰とも目も合わさず、バルコニーに向かったのよ! そのバルコニーにはリーファ・ハリストン! あなただけがいたのよ! 薬もほんの少しだったはずなのに、どうしてか、あなたへの執着は変わらないし!」



まさかの衝撃の事実だった。アーサー様が魅了の薬のせいでずっと私に執着していたとは……。 



「……何故、魅了を解かなかった?」

「解こうと思ったわよ! だから何とかして近づいたのに、アーサー様はリーファから離れないし! 毎日毎日アーサー様はリーファを迎えに行って、二人っきりでお茶会をして! おかしいぐらい薬が効いていたのよ! たったあれだけの量であんなに効くわけがないのに! だから、一度リーファを手に入れたら魅了が終わるから、呪いもかけたのに……! あなたが逃げるから……!」



おかしいぐらい効いていたって……自分で盛っておいて何を言っているのでしょう。

私は不安と恐怖の毎日だったのに……。

そう思うと、旦那様にしがみついている手に力がはいっていた。









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