呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます!
厨房でお茶を準備して、ロウさんと一緒に旦那様の待つ居間に行く。



居間のソファーに向かい合って座る二人は、空気がピリピリしていた。



「旦那様、お茶です。アーサー様、どうぞ」

「リーファが準備するのか!? 使用人にさせないのか!?」



私が、お茶を出すことに心底驚くアーサー様に、旦那様がいつもの無表情で言った。



「うちの使用人はロウと料理人しかいないと話したでしょう」

「しかし……!」

「アーサー様、私がしたくてしているのです。旦那様のために私がしたいのです」



そして、ささっと旦那様の隣に座る。

一体何の話しをしていたのか、気になりながら二人を見る。

二人はにらみ合い険悪だ。



「ロウ、陛下からの手紙だ」



旦那様はアーサー様から目を離さずに、後ろに控えているロウさんに手紙を渡した。



気になる私は、その手紙を追うように振り向いてしまう。



「……リーファ。陛下から、アーサー様をしばらくヘルハウスにおいて欲しいと頼まれた」

「えぇっ!? それって……!」



それは、ここに同居するということでは!?



「……薬の耐性をつけさせたいのと、今回のことを考えて、しばらく城から出したいみたいですね。魅了の効き目はもうないと思いますが……よく効いていたこともあり、また薬を盛る人間がいると考えているようです。 療養という名目でお暇を出すそうですよ」



ロウさんは手紙を読み、簡単に説明した。



「どこか別のところは? 陛下やアーサー様がお持ちの邸とか?」

「潜伏先を知られないようにしたいそうで……」



ロウさんが、手紙をたたみながらそう言った。

旦那様が不機嫌な理由がわかった。

アーサー様を私の側に置きたくないのだ。



「実は……俺が魅了の薬を盛られていることは内密にしていたのだが……城の役人には隠しきれず、貴族の令嬢たちに魅了の薬を買い求めるものが増えてしまって……しばらく、父上から城を離れるように命をくだされたんだ。……ここなら、人も来ないし、あんなことがあったから、まさか俺がヘルハウスには行かないだろうと、裏をかきたいそうで……」



アーサー様は、気まずそうに話した。



どうやら、城ではお茶1つ飲むのに苦労しているらしい。

むしろ、人前では何も口に出来ないと……。

そして、魅了の薬を買い求める貴族たちには、まがい物を掴まされることや、高額なものを吹っ掛けられたりと、貴族間では、ちょっとした混乱が起きていた。



この完璧な外見に身分。

私にとっては、迷惑な執着王子だが、ご令嬢には寵がなんとしても欲しいと思える方なのだ。



「お頼みでしょうが……実のところは陛下からの命ですな」

「王命ですか?」

「そうなる」



ロウさんも断れないという雰囲気だった。

旦那様は、仕方ないと、ため息まじりでお茶を飲んだ。



「ヘルハウスでの滞在は認めます。しかし、リーファには決して手を出さないでください。もし、またリーファに手を出すようなことがあれば、容赦はしませんよ」

「……わかった」



落ち込み気味に、肩を落とすアーサー様。

誰に薬を盛られるかわからない毎日。

本当に、城に居るのが困っているのだろう。



「リーファもいいな?」

「はい」



旦那様が決めたことに反対する気はない。

それに今のアーサー様なら、魅了の薬が切れているから、私を無理やり手込めにしようとは思わないだろう。



「ロウ、アーサー様からの花束だ。部屋も準備してくれ。俺とリーファは少し出かける」

「畏まりました」



ロウさんが花束を取るとアーサー様はあせる。



「それはリーファにだ。リーファの部屋に……!」

「リーファの部屋もありますが、今は俺と寝食を共にしてますから、部屋には飾りません。リーファ、行くぞ」

「はい」



茫然とするアーサー様に振り向きもしないまま、旦那様は有無を言わさずに私の肩に手を回し部屋をあとにした。











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