綺麗で優しい花々と小さな鳥籠
「あぶないの! みんなにげて」
 彼女が五歳の時、そう言った。
 みんなが隣の村に逃げた後、盗賊が村を襲った。しかし、村人は皆、彼女の言葉に従っていたため、誰一人としても死んだ人はいなかった。

「虫がいっぱい来るの。何とかしないとみんないなくなっちゃう!」
 彼女が七歳の時、蝗害が起こった。
 近隣の村や遠くの里は蝗害によって大きな被害が出て困っていたが、俺たちの村は、彼女のおかげで蝗害に対する準備ができたので被害に遭うことはなかった。

「大きな地震が来るから、逃げる場所と食べ物、飲み物を用意して欲しいの」
 彼女が九歳の時、大きな地震が起こった。
 俺たちは地震が起こる前に、頑丈で大きな建物に食料を蓄え、さっさと避難していたため、建物が倒れたりする被害はあったが、死者は出なかった。
 
 この時だろうか、俺達の村だけ死人が出ていないことを怪しんだ国がこの村のことを調べ始め、彼女のことを突き詰めて、王都から迎えが来たのは。

「巫女様、どうか、我らと共に来ていただき、託宣を御授け下さい」

 白い服を着た変な人間と鎧と剣を持った達が急にやって来て、彼女を無理矢理連れて行こうとした。

 彼女を助けようとした俺達に剣を向け、彼女を脅した。
『逆らったらこいつらを全員殺す』と。

 彼女は心優しい人だった。俺達が怪我をすることを最も嫌がった。だから、抵抗することなく、困ったように笑ってバイバイと手を振って豪華な馬車に押し込められてしまった。
 馬車は止まることなく、鎧を着た人間達に大袈裟に守られながら村から離れて行ってしまった。

 こうして、俺の前から月のように、静かに笑う彼女は、居なくなった。

 
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