【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
Episode.0
◇
ガチャッ、と勢いよく開けた扉の奥。
ベッドに腰掛けてスマホを見ていたその目が、すこしだけ和らいでわたしを見た。
「雫」
「何してたの?」
後ろ手で扉を閉めて、彼の元に歩み寄る。
そうすれば彼はスマホの液晶を下にして、それをベッドサイドのテーブルに置いた。
「チームからの連絡だ。大したことじゃねえよ」
「そっか」
頭を撫でられて、彼を見上げる。
舘宮 まつり。困っちゃうぐらいに綺麗な顔をしたこの男は、わたしの恋人。
関東には、暴走族のチームがいくつも存在する。
そのうち、南側のすべてのチームを統べているのが、暴走族彼岸花。まつりはその彼岸花の7代目総長であり、つまりはとっても、強いってこと。
「何か用事があったのか?」
「ううん、みんなに聞いたらまつりは部屋に行ったって言うから。
わたしのこと置いてくなんてさみしいなと思って」
「ああ、悪いな。すぐ済ませて戻るつもりだった」
まつりの彼女。イコール、彼岸花のお姫様。
南連合から護られる立場にあるわたしを、彼岸花のメンバーは大事にしてくれる。
「はやくもどろ?
稜くんが、お茶でもしようって」
まつりを呼びに来た理由を思い出して、彼の手に触れる。
そうすれば「わかった」とまつりがベッドから立ち上がって、置いたばかりのスマホを制服のポケットに入れた。
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