【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



その言葉に怯んだのか、彼女はくちびるを噛む。

それから、取り巻きのふたりを連れて、教室を出ていった。



「そんなこと、言われなくてもわかってる」



最後に言われたそれには、それでも諦めきれないって気持ちが隠れているように聞こえた。

昔からずっと好きな相手が、ぽっと出てきただけの女に少なからず何かしらの反応を示していたら、そんな風に強く言ってしまいたい気持ちも分からないわけじゃない。



「大丈夫ですか? 姫」



「大丈夫……ありがとう。でも姫って、」



「はは。お気になさらず」



相も変わらず爽やかに笑みを浮かべて、彼はわたしの元へ近づいてくる。

それから「お久しぶりです」と、わたしに告げた。……お久しぶりです?




「覚えてます? 俺のこと」



「そういう類のナンパ……じゃないわよね?」



「まさか。

受験当日のこと、覚えておられませんか?」



受験当日?

ああ……! 思い出した……!



播磨(はりま)くん!」



播磨 双治(そうじ)くん。

そうだ、思い出した。受験当日、この学校に来たわたしは、学校の手前で落ちていた播磨くんの受験票を拾った。そして受付で困り果てていた彼に、「これ違いますか?」と声を掛けて、それを渡した。



「あの時は本当に助かりました。

おかげで、晴れて俺も雫さんと同じクラスです」



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