【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
・曖昧な愛
◇
「ねえ、越」
「……何やってんの?」
美しくて細い、しなやかなその身体に腕を回す。
制服を着ている彼は、帰宅するなり着替えようとしているのだけれど、後ろからそれを完全に邪魔しているわたし。
「越に触れたくなっちゃったの」
言えば、ため息を漏らす彼。
その背中に顔を押し付けていれば、「ちょっとだけ離して」と彼はわたしを宥める。
「すぐに済むから」
子どもをあやすような声に、手を離す。
実際、「いい子」と深い声色で言われたあたり、本当に子ども扱いなんだろう。ブレザーを脱いでクローゼットに収めた越が、そのまま気だるそうにネクタイを外した。
……っ、なにその色気。
後ろから見ててもドキドキするんですけど。そんなの、中学生が出せる色気じゃなくない??
「で、なに? 触りたいって?」
「……うん」
シャツはそのままで振り返った越が、わたしに向かって軽く腕を広げる。
お好きにどうぞ、の意思表示のそれに、越の首に腕を回して抱きついた。
「なんか嫌なことでもあった?」
優しく抱き寄せてくれる越。
髪をくしゃっと撫でられて、ふるふると首を横に振るけれど。
「雫が急に家に行きたいって言い出すなんて変でしょ。
……話くらいは聞いてあげてもいいよ」