【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
断れば、優しく頭を撫でられる。
その撫で方は優しくて、本当に女の子に興味が無いと言われていたのかと思うくらい。
「……まあ、優理に誘われても拒否してたしな。
お前にその気がねえうちは、別に構わない」
「その気がないうち、って、」
「これ以上は言わねえよ」
ちょっと、ずるいんじゃない?
最初のセリフとか、優しい接し方とか、期待を持たせるような素振りとか。
「ん、また明日な。気をつけて帰れよ」
決して彼のことを好いているわけではないのに、彼女扱いのようなそれに、すこしだけ動揺する自分がいる。
……こんな風に惑わされてちゃ、だめだ。
「……うん。また明日ね」
にこりと笑って、彼等に手を振る。
先に外へと歩き出し、途中で振り返れば、播磨くんが幹部のみんなと何か話しているのが見えた。……話が終わるまで、待っててくれたのかな。
「越、」
ぽつり。その名を呼ぶ。
……彼の声が聞きたくてたまらない。いつもみたいに、雫ってわたしの名前を呼ぶ彼の声が聞きたい。
「っ、」
大事な用事以外で電話を鳴らすなと言われたけど。
家に着いてから電話を掛けてみれば、数回のコールの後、『もしもし?』と落ち着いた越の声。
「っ、越、」