【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
一瞬だけ、シン、と静まり返る幹部室の中。
キスを受けた彼は冷静で、真っ直ぐにただわたしを見つめる。
「ただいまのキス、してなかったでしょ?」
「ああ、そうだな」
まつりの指が、わたしの頬を撫でる。
さっきと同じような瞳で見つめられているけれど、その奥にあるものが、全然違う。
それに小さく笑って、まつりの胸をそっと押し返す。
ここから先は、みんなに見せてあげる必要も無い。
「っ、ん、」
だからまつりがわたしを欲しいと思うのは、ふたりきりになるタイミング。
それはみんなでの夕飯を終えて、ティラミスも食べて、少し落ち着いてからバイクでまつりに家まで送ってもらったその後。
この時間、家には誰もいないことをまつりは知ってる。
マンションの下まで送ってもらったらそれで平気なのに、わざわざ彼が家の前までついてきたその理由なんて、聞かなくてもわかってる。
「まつり、」
鍵を開けて扉を開いた瞬間、まつりがわたしの背を玄関の壁に押し付ける。
入る時に器用に扉を閉めたようで、2秒後にバタンと閉まったそれ。
「雫」
慈しむように名前を呼ばれ、視線を視線で絡め取られる。
逃げられずにいたら、優しくキスを奪われて。
「愛してる」
髪に差し込まれた手が、そっと動く。
何度も何度もくちびるが合わさったあと、深くなるそれに、思考が溶ける。