【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「計画、順調なの。
舘宮 まつりに、直接彼女になるよう言われた」
『……いきなり?』
「うん、わたしもびっくりした。
さすがに怪しすぎると思って断りはしたけど、今後も関わりが続くように接して、上手く取り入るつもりよ」
『わかった。それで進めて。
一応聞くけど、無茶なことはしてないよね?』
「してないわ。それは約束する」
越の後ろから、物音は何も聞こえない。
どうもわたしが構造を知り尽くしている朝顔の倉庫にいる様子がないから、自宅にいるのかもしれない。
鼓は越の幼なじみだし、ふたりが一緒にいたところで疑問はないし。
それでも珍しいな、と。そう思っていたら、不意にインターフォンの音が鳴る。こちらかとルームフォンに目を向けるけれど、呼び出しランプは光っていない。
『……ごめん雫、来客。
さっき頼んだデリバリーだと思うけど、とりあえず切るね』
「うん、ごめんね。もう平気よ」
『いや。……今後も無理はしないように』
「わかっ──」
わかった、と。
言葉を返すよりも早く、切れる電話。6分21秒と通話時間だけが表示された画面を、数秒見つめる。
数分後に、なぜか越ではなく鼓の方から、『忙しないやっちゃ。ほんまごめんな』とメッセージが来た。きっと越に送っておいてと頼まれたんだろう。
それは構わない。構わないけれど。
……ねえ越。
どれだけわたしが"馬鹿っぽい"雫だったとしても。あなたの嘘に気がつかないほど、もう馬鹿っぽい雫じゃないのよ。