【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
舘宮くんの、わがまま?
なにそれ、なんてきっと言うまでもなく、わたしはその"わがまま"の意味を知っていて。
「……いいわ。聞いてあげる」
迷わないその返答に、彼が口角を上げる。
自信のあるその表情に、ほんの一瞬どきりとした。
「彼岸花メンバー全員に告ぐ。
本日より、この東山 雫を彼岸花7代目の姫とする」
女に興味が無いと謳われる彼がそんな宣言をするなんて、一体誰が予想しただろう。
当事者のわたしでさえ予想外なんだから、きっとほかの人間にとっては、もっと予想外なことで。
「その意味は、言わなくてもわかるな?」
彼岸花の、姫。
つまりは、彼岸花総長の、女。
「手を出さねえ方が、身のためだぞ」
万が一、1対1でそれを聞いたら、震え上がってしまいそうな。
迫力のある声は、誰にも有無を言わせない。
「まあ、そんな馬鹿はいないと思うが、」
舘宮くんの手が、わたしの頬に触れる。
優しく撫でるようにして、そのまま、顎を持ち上げられて。
「俺は冗談でこんなことは言わない」
重なるくちびるに、目を閉じる。
その瞬間脳裏に浮かんだ、越の表情に。
すこしだけ、心がじりじりと痛んだ。