【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
心地良くて、身を委ねそうになる。
彼の首に腕を回して密着度を高めると、まつりの片腕が強くわたしを引き寄せてくれた。
「……足りねえな」
それはまつりの独り言だったのか、それともわたしへの言葉だったのか。
聞く前にまたくちびるを塞がれて、密な空気がこの場を煽る。
「抱きたい」
どストレートなそれに、どきりとした。
求められて、嬉しくないわけじゃない。だけど。
「っ……きょ、うは、だめ」
制止の声を上げれば、綺麗な瞳が不機嫌そうに細められる。
わかってる。キスで誘っておきながらギリギリのところでストップをかけるなんて、結構ひどい。でも。
「理由は?」
「このあと、お兄ちゃん帰ってくる、」
「………」
「今日早いって、さっき連絡あった、から」
ごめんなさいと言えば、まつりは「仕方ないな」とつぶやく。
けれど、口では言いつつも、やっぱり不機嫌そうで。
「……まあ、また今度にする。
最近夜冷えるから風邪ひくなよ」
また明日、とまつりは渋々帰っていった。
そしてひとりになった家の中で、思わずため息をつく。