【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
中学時代だって、わたしは浮いてた。
真面目に、目立たないようにって頑張って大人しくはしていたけど、結局どうにも上手くいかなくて空回ってたし。
いまさらそんなの、気にするようなタイプでもない。
越に言わせれば、『一々他人に突っかからなきゃ生きてけない連中』だ。何の実りもないし相手にするだけ無駄だと彼に教わった。実際、わたしもそう思う。
「まあ、僻まれてんだろうねえ」
「でしょうね。
快斗の言葉通りなら、まつりの彼女なんてそうなれるもんじゃないんだろうし」
「……、そのことなんだけどさ~」
優理が、すこしだけ歩くスピードをゆるめる。
かち合った視線は優しくて柔らかい。
はじめて声を掛けられた時のような嫌味な気持ちは湧いてこないし、優理の中にもそんな気持ちはもうない。
「雫ちゃんは、まつりのこと好きじゃねえんだよな?」
「……そんな風に見える?」
「そう見える、っつうよりは……
好きで付き合ったようには見えねえ、かな」
「ならそうだと思うわ」
「じゃあまつり以外を好きになる可能性もあるってことだ」
「うん……? まあ、そう、ね?」
わかりやすいのか、隠す気は無いのか。
優理が伸ばした手が、わたしの手に触れる。ただわたしの手を包むように握って、笑う姿は昼よりも元気そうに見えた。