【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
彼岸花の体制が、一瞬にして変わってる。
おかげでまつりが姫を置いたことを聞きつけた南連合の下のチームからは、「その噂ガチ?」ってすげー連絡が来る。
めちゃくちゃガチなんだよな、これが。
「うん。ありがとうまつり」
でも別に、雫はまつりのこと好きじゃねーんだよな。
そこも含めて、マジでヘンな女。
ほかの女みたいに、まつりの女になりたかったとしたら。
姫になった時点でまつりにベタベタしてるはずなのに、それもねーし。でもまつりの話には乗ったし。
「がんばってねー、しずくん。
下っ端の子たちが『姫に聞きたい100の質問』とかいう質問集作ってたのぼく見たよー」
こんな空気に慣れてる、なんてことはねーんだろうけど、少なくとも"普通"に、"平凡"に生きてきた女じゃねーことは、俺でもわかる。
時々、目の奥が冷静すぎるぐらいに落ち着いてんのが見えるから。
「100の質問……」
「ごめんね、うちの下っ端そういうしょうもないこと好きなんだよ。
逆に言えば、なんでも笑って受け入れるようなメンバーだから」
「え、そう?
楽しそうなこと考えるのねって思ったんだけど」
「……姫適性高いよね、雫ちゃん」
クラスで囲んでくる女たちに、迷うことなく啖呵をきったり。
好きだって言ったらしいまつりに好きじゃないって言い返したり、そもそも彼岸花のたまり場に連れてった時も平然としてたり。
同い年の女にしては、あまりにも肝が据わりすぎてる。
まあ稜介の言う通り、姫としては適任だと思う。
姫。──それは、総長と同じ判断を委ねられる場合がある。