【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
こぼれそうになった涙を無理やり飲み込んでいたら、聞こえてきたそれに、ぴくっと肩が揺れる。
……決行、って。
「朝顔に、もどっていいってこと?」
『そ。もどってきていいよ、お姫様』
電話越しの声はさっきと変わって、どことなく嬉しそう。
それを聞いて、なんだかホッとした。
『楽しみだね?
アイツらの、裏切られたこと知った時の顔』
「……うん」
彼岸花とは反対側の、関東暴走族北連合。
それを率いるチームが朝顔であり、トップはこの男、神喜 越。
シンプルに言うのなら、まつりと同じ地位の人で。
……本当の、わたしの、恋人。
『あれ、なんか嬉しくなさそうじゃん』
「そ、そんなことない。
越に会いたかったから、もどれるの、嬉しい」
『そ? ならいいけど。
彼岸花に居すぎて、そっちに肩入れしたのかと』
越の目的は、関東連合統一。
そのために、彼岸花をどうしても潰したい。
けれどガードの硬い彼らが簡単に実力で手に入るなんて思っていない越が立てた作戦は、トップの舘宮まつりをハニートラップで恋に落とすこと。
つまり。わたしを好きにさせること。
作戦は大成功。だからわたしのお役は御免。
越がそう言った以上、好きでもない男に好きだと返す日々はおしまいだ。