【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
数日後。
なぜか今は3限目の授業中だというのに、旧図書室にいる雫。……まあ"なぜか"と言いつつ俺もサボってんだけど。
1.2限目は俺も大人しく授業に出ていたし。
ほかのヤツらは雫がサボっていることを知らないようで、部屋には俺と雫のふたりだけ。
双治を一度ここへ来させてまでサボりに来た雫に、なんで来たんだと聞いても「気分?」の一言。
気分でサボるような女じゃねえだろ、オメーはよ。
「嫌いって、なんで」
「普通に一緒にいてくれてるように見えるけど。
時々わたしと過ごすの怠そうだから。今もね」
「………」
仮にもし、俺が本当に雫のことを嫌いだとして。
そうやって自ら「嫌いなんでしょ」と聞けるそのメンタルは、正直尊敬に値する。逆に言えば、一々何かを気にする素振りのないそれに、居心地の悪さを感じるわけで。
カラカラと窓を開ける。
俺がポケットから出したタバコを見て何か言いたげな顔はするのに、何も言ってこない。
「言いたくねーなら忘れてくれればいい。
オメー、親と仲良い?」
「親……? うん、まあ。
"仲が良いか悪いか"で聞かれたら、良い方だと思う」
……なんか意味深な返答だな。
「じゃあ、俺らと関わってることを知ったら。
オメーの親は、どんな顔すると思う?」
雫は飄々としてるが、俺らは一応暴走族だ。
美高では評価になっても、世間じゃマイナスのレッテルを貼られることだって少なくない。
まともな人間は、俺らに好感なんて持たねーんだよ。
俺ら個人が、どれだけ優れた存在だったとしても。