【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
息を整えるかのように紫煙を吸い込み、軽く吐き出す。
空いた方の手で雫の顎先を掴んで、ぐっと顔を寄せた。
くちびるが触れるまで、ほんの数ミリ。
下手に身体を動かせば、容易く触れる。
「俺が今ここでキスしたら、お前のことが好きだって?」
「少なくとも、嫌いな相手にはしないでしょ」
「はっ、ガキかよ」
「わたしがガキならあなただってガキでしょ?」
見つめ合って──3秒。
俺の指を簡単に払った雫は、「冗談」と言いながら俺から距離をとった。深追いなんて、するもんじゃない。
「わたし、まつりに怒られたくないし」
「生憎俺もだわ」
「ふふっ、じゃあ"しなかった"のが正解ね」
窓の外からの風で靡くブロンドの髪。
それに目を惹かれると同時に、じくりと胸を抉られたような感覚。ライターでつけた火がじんわりとタバコを侵食する様子に、そっくりで。
「つぎ4限だけど、快斗授業出る?」
「あー……出ねー」
「そう? じゃあ播磨くん呼ぶわ」