【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「そんなわけない。
……わたしには、越だけだから」
『そっかそっか。
俺だけの雫。愛してるよ』
耳元で聴こえる優しい響き。
まったく同じ言葉をさっきまつりに言われたけれど、こんなにも気持ちへの響き方が違う。
どきどきして、うれしくて。
越の元に帰らなきゃって、思う。
「わたしも愛してる」
『知ってるよ。
詳しいことはまた連絡する。おやすみ』
おやすみを返せば、電話はすぐに終わる。
わたしたちは恋人同士だけれど、電話の内容は必要最低限。なぜなら越が、電話嫌いだから。
それでもわたしと電話してくれる越は、優しいと思う。
彼岸花に潜り込んだあとも、度々越はわたしに会いに来てくれた。それだけでどれくらい大切にされてるのか、なんて、考えなくてもわかる。
彼岸花とも、まつりとも、もうすぐお別れ。
悲しむことなんて何も無い。だって何もかもが、わたしたちの出会う前にもどるだけのこと。
わたしのことを拾ってくれた、越には返しきれないだけの感謝がある。
それに、抱えきれないくらいの愛だって。
だから。
「っ……」
わたしが傷つく理由なんて、ひとつもない。
わたしは越を愛してるし、越だってそう。
きっとおかえりって、優しく迎えてくれるはずだから。