【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
北にいた時から、幹部のお誕生日を祝う時はわたしが主役。だからこういう仕事は慣れてる。
当時は幹部じゃなかった越たちのお祝いも、個人的にしてたし。
「いや。オメーの仕事は他にもある」
「そうだよ~。
稜介に構いすぎで、うちの総長拗ねてるぞ~」
快斗と優理にそう言われて、まつりの方を見る。
彼は何も言わずにわたしたちのそばで話を聞いてるだけで、拗ねてるようには見えないんだけど。
そのままジッと見つめていたら、彼とばっちり目が合ってしまって。
「雫」と呼ばれてしまえば、わたしに逆らう術はない。
「……なぁに? まつり」
近づいて、まつりを見上げる。
稜くんのお誕生日ケーキ、準備したいんだけどな。
「、」
まつりの指が、わたしの髪を優しく耳に掛ける。
近づいたくちびるが耳たぶに触れて、そこから紡がれる言葉はひどく甘い。
「お前にもっと触れたい」
「っ……!」
っ、今!? 今それ言う必要ある!?
いくら声がわたしにしか聞こえないからって、このタイミングで言わなきゃいけないの!?
しかも内容が内容だから、不可抗力に頬が染まる。
声が直接流し込まれて、背筋がゾクッとして。
「……そそる顔すんなよ」