【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-



みんなが"雫ちゃん"、"姫"って、普通に呼んでくれるから。

なんだか錯覚してしまいそうで、すこしだけ怖い。



いつかはここを離れる日がくる。

そしてその時わたしは、彼等を当然のように裏切らなきゃいけない。──それが本来の、役目だから。



「雫ちゃん」



「え? ああ、稜くん。どうしたの?」



「どうしたの?はこっちのセリフだよ。

彼岸花唯一の女の子が、みんなから離れて2階上がっていくもんだから心配もするでしょ」



「まつりには、

上に飲み物取りに行くって言ったんだけど、」



「ただ飲み物取りにきたって顔じゃないけどね」




幹部室に備え付けられた、キッチン。

グラスを出したところまではよかったけれど、冷蔵庫を開けることも無くジッとしているのを見られてしまったらしい。……というか。



「俺が入ってきたことにも気付いてなかったでしょ?」



「あ、バレちゃった?」



稜くんが部屋に入ってきたことにすら気付かなかった。

にこりと笑ってみるけれど、稜くんの目は誤魔化せない。この人だって、伊達にまつりのそばにいて、彼岸花の副総長をやってるわけじゃない。



「……なんかあった?」



「ううん。何もないわよ」



「快斗と、何かあったでしょ」



< 154 / 295 >

この作品をシェア

pagetop