【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「っちょっと、快斗……っ」
パタン。
無慈悲にも閉まる扉に、その場で立ち尽す。
っ、いやいやいや。
いまの発言はなんだったのよ……!
決して甘く囁かれたわけじゃなかった。
むしろ、「コンビニ行く?」ぐらいの軽い口調で放たれたそれが、脳内をずっとぐるぐるしてる。キス、してもいい、って。
「……ああ、そういう、こと」
ぴたり。
乱れた思考がひとつの結果に行き着けば、驚くほど心の中は冷静になった。
簡単なことだ。
少なくとも嫌いな相手とはキスしないでしょ?と、わたしは彼に問うたのだ。そして今の問題発言こそ、快斗からの答え。──"嫌いじゃねーよ"、ってこと。
……聞いてたのね、わたしと稜くんの会話。
あの場にいて聞かれてないなんて思ってなかったけど、それならそれで入ってきたら良かったのに。
「雫」
「どうしたの?」
階段をおりて下にもどると、まつりがわたしに気付いて声を掛けてきた。
近づけば、何も言わずにさらさらと頭を撫でられる。
「今日は稜介がお前のこと送るんだと」
「ああ、今上で教えてもらったわ。
っていうかまつり、あなた稜くんに誕生日プレゼント用意してなかったって聞いたんだけど」
「今更なんか贈り合うような仲じゃねえからな」