【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「あいつは……まあ、俺が話すことじゃねえか。
いずれはわかることかもしれねえしな」
「そうね」
「ん。
……それより、稜介に何かされたら言えよ」
「……何かって」
稜くんに限って、そんなことはありえないと思うんだけど。
誰かさんじゃあるまいし。と言いたげにまつりを見れば、これ見よがしに今度こそため息をつかれた。なんだその反応は。
「稜介みたいな男の方が危険なんだよ。
そもそも雫、お前はほかの男に対しての警戒心が薄すぎる」
腕を組んでお説教スタイルに入るまつり。
これを素直に聞いたら、絶対に長いに決まってる。立場上彼が口を出してくるのは仕方のないことだと理解はしているけれど、第一わたしはまつりのことが好きなわけではない。
「まつり。雫ちゃんが可愛くて仕方ねえのはわかるけどよ~。
お前事前準備なーんもしてねえんだから、お前も後片付けぐらいは手伝えよ」
「優理」
ぽん、と。
わたしの背後から肩に手をのせてくる優理。"警戒心が薄すぎる"と言われたそばから触れられているせいか、それとも優理の発言のせいか、まつりが眉間にシワを寄せた。
綺麗な顔が台無しだ。
入学式で代表挨拶として呼ばれたまつりを最初に見かけたとき、話すことも難しそうなほど冷静で落ち着いている人だという印象を受けたのに。
想像していたよりも、感情が豊かな人だと思う。
……わたしの前では、なのかも、しれないけど。
「すぐりん、まつりん、てつだってー!」
薄く開きかけたくちびるが、離れたところからふたりを呼ぶ咲ちゃんの声で閉ざされる。
なんとなくわたしも手伝うために動こうとしたら、ふれたままだった手を優理がぽんぽんとなだめるように動かした。