【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
一緒に過ごした時間が長ければ長いほど、お互いのことがよくわかる。
それはわたしたちも例外じゃないし、実際にわたしは出会ってからの時間のほとんどを朝顔のみんなと過ごしたと言ってもいい。
越が何を考えているのかまでは、さすがに理解できないけれど。
それでも、ある程度のことはつかめるような関係になったと思う。
だとすれば、いまのわたしたちは倦怠期なんだろうか。
越に尋ねたって、「何言ってんの」って冷たく躱されそうだけど。
「雫ちゃん、今日は本当にありがとう」
「ううん。わたしは何もしてないわよ」
「そんなことないよ。実際、俺は嬉しかったから」
帰り道。約束通り稜くんが家まで送ってくれているから、ふたり並んでゆっくり歩く。
何かあったわけじゃないけど、あの後まつりとは一度も話すタイミングがなかった。帰る時も、彼はわたしではなく稜くんに何か話していただけだったし。
「あ、そうそう。
わたしから稜くんにも、プレゼントがあるのよ」
不意に。
思い出したのは本当だけれど、嬉しかったと言ってくれた稜くんの純粋な感謝を受け取れない気がして、話を逸らす。
バッグから取り出した小さなギフトに、彼は首をかしげた。
歩みは止めないままそれを差し出すと、稜くんは不思議そうなままそれを受け取った。中身は、快斗に話した通りのものだ。
「……あのさ、雫ちゃん」
「うん?」
手渡したそれを、じっと見つめたまま。
稜くんは覚悟を決めたみたいに、口を開いた。
「裏切り者って、どう思う?」