【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
ドクン。
鼓動が一度強くなって、そこからどんどんと脈がはやくなっていく。……裏切りものって、わたし?
「ど、うって」
はやくもバレた?
でも朝顔は何も仕掛けていないはずだし、もしバレたとしたらそれはすべてわたしが何か起こした出来事からだ。記憶をさかのぼってはみるけれど、そんな記憶はない。
「ああ、ごめん。
別にそんな顔させたかったわけじゃないんだけど」
稜くんが顔を上げる。
裏切り者と口にした割にはいつもの穏やかな笑みで、到底わたしを疑っているようには見えなかった。
「俺さ。
……実は一回、彼岸花を抜けたことがあるんだよね」
やわらかな口調で、紡がれたそれ。
思わず、反射的に「え?」と言ってしまったほどだ。
「うち、親が厳しいんだよね。
たぶん快斗からも何か聞いてると思うけど、快斗の親って両方教師でさ。そんな感じで、うちは父親が国会議員で」
「ああ、」
親がどうのって聞かれたのは、そのせいか。
両親ともに教師。……あの言い方だと、快斗も両親からそこそこに何か言われたりしているんだろう。
「井瀬谷は、母親の名字で。
親が結婚する前に産まれたのが俺だから、俺は父親の名字すら名乗らせてもらえない」
「でも、父親、なのよね?」
「血のつながりだけの、ね。
両親は健在だけど結婚もしてないし、毎月多額の養育費が振り込まれるだけ。……のくせして、俺の生活態度に問題があれば口は出してくるんだ」
稜くん曰く、彼は議員の隠し子らしい。
どうしてそんな複雑なのかと問えば、当の本人にはもうひとつ家庭が存在するんだと返された。……つまり、稜くんは愛人の子ということになる。