【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「付き合ってた人、ってこと?」
「そうだね」
「さあ……どうだろ?」
首をこてんと傾げる彼女。
煙るような雰囲気。身を取り出せば距離が縮まって、手を伸ばせば容易く触れられる。その手で彼女の持ったままだったタオルを手に取り、撫でるようにして髪を拭う。
「俺より、自分の心配した方がいいよ」
大人しい雫ちゃんの髪を拭い、肩に触れる。
タオル越しだから直接触っているわけじゃないけれど、これってもしかしてセクハラに値する?
噛み合っているようで噛み合っていない会話。
ある程度彼女の服の水滴を拭い終えた時。雫ちゃんが、俺の肩に手を乗せていたことに気づいた時には、もう。
「、」
呼吸が触れ合ったあとで。
なんで、と隠し切れない戸惑いは、二度目のキスに消える。
「……これでわたしも、同罪でしょ?」
「まつりを裏切った、って?」
「そう。だから。
……おなじだから、悩むことなんてないんじゃないの?」
くすり。
小さく笑みが漏れて、馬鹿だなあと思う。
俺らはそのキスで、まつりを裏切ったことになる。
だから俺がまつりを裏切った話をすることに、余計な感情は抱かなくていいと。きっと彼女はそう言いたくて、そんなこと、キスなんてしなくても言葉で十分伝わってたのに。