【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
「さっきの話だけど。
俺は本当に母さんのこと恨んでるわけじゃないし。むしろ父さんから俺のこと守ってくれてありがたいと思ってるよ」
──中学1年生、5月。
まつりと学校から帰宅する道のりを歩いていた俺は、後ろから突然飛んできた小石に脚を止める。
小石と言っても、指の先に乗るような大きさではない。
明らかに悪意を持って蹴らないと飛んでこないようなそれが、下からではなく上から弧を描いて飛んできた。……俺に向けて、飛んできたよな?
振り返ると、ニヤニヤ笑ってる男が3人。
制服が同じだから、上級生であることは分かる。
「おまえら、舘宮と井瀬谷だろ?」
「そうですけど、」
なんだ?
ちらりと隣の幼なじみを見るが、いつも通りの涼し気な表情。けれどすこし不機嫌そうに歪められていた。
「入学してからさーあ?
ちょっとお前ら、調子乗ってんじゃないの?」
「……は、あ」
「多少モテてるからって調子乗んなよ?」
俺らがいつ、調子に乗ったんだろう。
そりゃあ、隣の信じられないぐらい綺麗な顔をした幼なじみは、入学してからというもの毎日ひっきりなしに告白を受けているけれど。
「別に調子になんて乗ってませんよ」
調子に乗っていないことなんて、俺が一番よく知ってる。
そう思って口にするが、お相手はそんな返事じゃ気に食わないらしい。
歪められた口元と、鋭くとがった視線。
「ナメてんのか?」と吐き出された声は、隣でまつりが落としたため息よりも重く腹に沈んだ。