【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
穏やかな声がドアの開く音と同時に聞こえてきて、弾かれたように玄関へ駆け出す。
俺の大きな声に「なんだ、いたのか」なんていつも通り返してくるまつりの顔には、明らかに殴られた痕と血が滲んでいた。
「っごめん、まつり」
まだ新しい制服だって、砂埃で汚れてる。
歩き方に問題は無いようだけど、それでも綺麗な顔に残った傷は痛々しく見えた。
「気にすんなよ。こんなの大したことねえから」
「まつり……」
「腹いせに殴られただけだ。
その分やり返しておいたから、そんな顔すんなよ」
痛みが無いわけない。
なのに自分よりも俺のことを気遣って、そう言うまつりに、その場から逃げた自分がひどく情けなく感じた。……もっと頭を使えたら、よかったのに。
「っ、ごめん……」
これじゃ何のために勉強してるのか分からない。
本当は私立の有名学園に入学するよう言ってきた父親を押し切ってまでまつりと同じ地元の中学に入学することを決めたのに、こんなふうに守られていては意味が無い。
「派手にやったわねえ。こっちおいで、まつり」
白雪さんが小さくため息をついて、まつりを呼ぶ。
救急箱を持ち出してきた彼女は、ダイニングに座らせたまつりの傷を、慣れた手つきで手当していく。
「そういうところ、あの人にそっくり」
「……、一緒にすんなよ」
「仕方ないでしょ、あなたたち親子なんだから」