【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
幼なじみだからまつりの父親のことは知っているけれど、昔から忙しい人で、まつりの家から俺が帰る時間に、彼が帰ってくることはない。
たまに休みの日に顔を合わせることはあるけど、まつりの容姿は紛れもなく両親譲りだ。
「そうそう、稜ちゃん。ごはん食べてくでしょ?」
「え、いいんですか。
でも母さんが用意してくれてるかもしれないし、」
「実はもうOKもらってるのよ。
今日は稜ちゃんの好きなオムライスだから」
ふわり。
微笑んでくれる白雪さんに、思わず頬がほころぶ。
俺は白雪さんの作るオムライスが好きだ。
卵の中身がケチャップライスじゃなくてキノコ入りバターライスの、大根おろしとポン酢をかける和風オムライス。
「紅茶淹れなおそっか」と実の息子のように優しく接してくれる白雪さん。
それを"息子のように"と思ってしまう時点で、俺はきっと母さんの息子失格なんだと思う。
「気にしなくていい」
「……え?」
白雪さんのオムライスを食べ、流れていた推理ドラマを何となくまつりと一緒に見て、ようやく重い腰を上げたとき。
「話がある」なんて真剣な顔で言ったまつりが、家までの短い道のりを着いてくる。
「今日絡んできたアイツらも、俺の怪我も。
どうせお前のことだから気にするだろ」
「、」
バレてたんだ。そりゃまあ、まつりの顔にそれだけの怪我を負わせといて、気にしないなんて無理なんだけど。
俺があの場で引き下がらなかったら、殴られなかったかもしれない。そう思い始めるとキリがなかった。
助けられたのかって聞かれたら、それは分からない。
でも俺はまつりに怪我させないために、代わりに殴られるくらいどうってことない。それだけは確かだった。