【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
まつりが驚いたように俺を呼ぶ。
普段と大差のない声色だけど、それがわかるくらいには俺はまつりとの時間をそこそこに過ごしてきた。──守られてるだけじゃ、どうしようもない。
「無理」
「………」
「おい、なんかリアクションしろよ。
俺がイジめてるみたいになるじゃねえかよ」
ブレザーの内ポケットから、何かを取り出す西野さん。
それは白いプラスチックに包まれた飴玉で、ころんと口内に転がしてから「好きにしろ」とつぶやいた。
「左助。コイツは、」
すこし強ばったまつりの声は、明らかに俺が彼岸花に属すことをよく思っていなかった。
でも、俺にだって守りたいもの、あるんだよ。
「強くなりたいって目、してんだろ。
……俺はこういうヤツが好きだよ。アイツもそうだった」
「………」
「許してやれよ、まつり。
お前も、稜介に彼岸花のこと黙ってた負い目があんだろ」
「……わかったよ」
仕方なさそうに、まつりが頷く。
西野さんはそんなまつりの頭をさっきの俺と同じように撫でて、「じゃあ行くか」と先に歩き出した。
「あ、俺のことは左助でいいぞ、稜介」
この日のことは後悔していない。
本当に俺は、強くなりたかった。──大事なものを自分で守れるような、そんな人になりたかった。