【完】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
別に俺、大して不幸じゃないし。
養育費のおかげもあって、毎日楽に生活してる。
……従っとけば、悪い話じゃないんじゃないの?
「稜介。あなたはそれでいいの?」
母さんが、黙る俺に答えを促してくる。
それは優しさに見せ掛けて「従っておかないとまた何か言われるわよ」という言葉の裏返しだ。
言ったでしょ、人間、窮地に立たされると本心が出てくるって。
母さんにとって、俺は都合のいい金づるでしかない。
「……別にいいよ」
そうじゃなきゃ、きっと子どもを育てたいとも思ってない。
白雪さんが羨ましいなんて言葉、出てこない。
「わかった。来週、もう一度詳しい話をしに来る。
何か欲しいものがあったら私に連絡してきなさい」
なんだ、こんなに簡単だったのか。
素直に従えば父さんは優しい。俺が面倒なことを言い出さないようにそうしているのだと知っていても、別にそれでよかった。
思えばどうして反発していたのだろう。
別に従ったって、特に損はなかったはずなのに。
「稜介。……進路変えたんだって~?」
「……優理」
1週間後。授業の合間にお手洗いに向かったら、その前で優理とばったり出くわした。めずらしく、両手に女の子はいない。
近頃はまつりとも全く話さないし、優理とも自然とそうなっていた。生憎、ふたりとクラスも別々だし。
「なんで知ってるの?」